修繕積立金が狙われている!業者任せで管理されたマンションを買うと起きる悲劇

不動産の話

マンション管理計画認定制度で見える住民の本気度

マンション管理計画認定制度の取得は、そのマンションの住民が資産価値向上に積極的である証しです。

認定取得には管理組合全体の合意と能動的な取り組みが必要であり、賃貸住民と実需(所有者居住)住民が混在するマンションにおいて、住民の意識と行動力を測る明確な指標となります。


マンション管理計画認定制度とは

マンション管理計画認定制度は、2022年4月(令和4年4月)に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」改正によって創設された国の制度です。

地方公共団体が、一定の基準を満たすマンションの管理計画を認定します。

制度創設の背景

  • 2022年末時点:全国に約694万戸のマンションが存在、1,500万人以上が居住

  • 築40年超マンション:約125.7万戸

  • 2032年(10年後):築40年超が約260.8万戸(約2.1倍)

  • 2042年(20年後):築40年超が約445.0万戸(約3.5倍)

マンションの高経年化と管理組合の担い手不足が深刻化する中、管理の適正化を推進するために創設されました。


認定基準が示す「本気度」

認定を受けるには、5つのカテゴリで厳格な基準をクリアする必要があります。

1. 管理組合の運営

  • 総会が定期的に開催されていること

2. 管理規約

  • 管理規約が適切に作成されていること

  • 専有部への立ち入り規定

  • 修繕履歴情報の管理規定

3. 管理組合の経理

  • 管理費と修繕積立金の区分経理

  • 修繕積立金の滞納への適切な対応

  • 申請直前年度時点で3ヶ月以上の滞納者が全居住者の1割以内

4. 長期修繕計画

  • 計画期間が30年以上

  • 残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれる

  • 7年以内に見直し・作成が実施されている

  • 修繕積立金の平均額が著しく低額でない

5. その他

  • 組合員名簿、居住者名簿が適切に備えられている


なぜ「本気度」の証しなのか

総会決議が必要

認定申請には、管理組合の集会(総会)での決議が必須です。所有者全体の合意形成が前提となります。

修繕積立金の基準が厳格

2021年10月に長期修繕計画ガイドラインが改訂され、修繕積立金額の目安が大幅に上昇しました。マンション規模によっては上昇率が50%を超えるケースもあります。

この高い基準をクリアするには、住民の積極的な協力と合意が不可欠です。

継続的な管理が求められる

  • 認定期間は5年間

  • 5年ごとの更新が必要

  • 長期的な視点での管理体制維持が前提

事務負担を乗り越える意志

認定申請には以下の作業が必要です。

  • 認定申請書の作成

  • 長期修繕計画の作成・更新

  • 必要書類の準備

  • 公益財団法人マンション管理センターへの事前確認申請

この負担を引き受けてでも認定を取得する姿勢が、住民の本気度を示します。


賃貸と実需が混在する場合の違い

賃貸住民中心の場合

  • 短期的な視点が優先されやすい

  • 修繕積立金の増額に消極的

  • 管理組合活動への参加意欲が低い

  • 長期修繕計画への関心が薄い

実需(所有者居住)中心の場合

  • 資産価値維持・向上への関心が高い

  • 適切な修繕積立金の確保に積極的

  • 管理組合の運営に能動的に参加

  • 長期的視点での計画に理解がある

認定制度は、この違いを可視化する仕組みです。


認定取得のメリット

1. 固定資産税の減額

一定要件を満たす場合、固定資産税額が減額されます。

2. 金融支援

  • フラット35維持保全型:当初5年間年0.25%金利引下げ(2022年4月開始)

  • フラット50:返済期間最長50年の利用可能(2025年10月から管理計画認定マンション対象に拡大予定)

  • マンション共用部リフォーム融資:年0.2%金利引下げ(2022年10月開始)

  • マンションすまい・る債:利率上乗せ(2023年募集分から)

3. 市場評価の向上


認定の実績

2024年時点のデータ

  • 2024年1月末時点:424件

  • 2024年4月19日時点:677件(4月だけで115件認定)

  • 2024年8月2日時点:1,000件突破(8月5日時点で1,010件)

  • 2024年12月末時点:1,642件(国土交通省把握分)

8月から12月の急増

4ヶ月間での増加

  • 増加数:632件(1,642件 – 1,010件)

  • 増加率:約62.6%

  • 月平均:約158件の認定ペース

制度開始から2年8ヶ月で1,642件の認定は、全国約694万戸のマンションのうち約0.024%です。

地域別分布(2024年8月時点)

順位 都道府県 認定数 1位 東京都 273件 2位 神奈川県 208件 3位 大阪府 94件 4位 兵庫県 77件 5位 千葉県 65件

市区別トップ(2024年8月時点)

順位 自治体 認定数 1位 横浜市 127件 2位 川崎市 60件 3位 京都市 38件 4位 大阪市 37件 5位 名古屋市 37件

認定マンションの特徴


実務的な申請の流れ

ステップ0:管理組合の決議

総会で認定申請を決議

ステップ1:事前確認申請

マンション管理センター等に事前確認を申請

ステップ2:事前確認適合証の発行

認定基準適合を確認

ステップ3:認定申請

地方公共団体に申請(事前確認適合証を添付)

ステップ4:認定通知書の発行

認定完了

オンライン申請:マンション管理センターの「管理計画認定手続支援サービス」でワンストップ処理が可能


マンション管理計画認定制度とマンション管理適正評価制度の違い

マンション管理計画認定制度

  • 実施主体:地方公共団体(国の制度)

  • 開始時期:2022年4月

  • 評価方法:認定基準への適合性(合否)

  • 法的根拠:マンション管理適正化法

マンション管理適正評価制度

  • 実施主体:一般社団法人マンション管理業協会

  • 評価方法:6段階評価(星の数)

  • 目的:管理状態の市場評価

併用可能:両制度を同時に申請することで、より包括的な評価を得られます。認定マンションの72.3%が管理適正評価制度にも登録しています。


深刻化する大規模修繕業界の闇

2025年5月「なりすまし事件」の衝撃

マンション管理の重要性を示す象徴的な事件が、2025年5月17日(令和7年5月17日)に発生しました。

事件の概要

発生場所:神奈川県の首都圏マンション 期間:2024年8月~2025年5月(約9ヶ月間) 被疑者:大阪府東大阪市の大規模修繕工事施工会社の社員2名

手口の詳細

  1. 名義貸しによる潜入

    • 区分所有者の名義を借用

    • 大規模修繕委員会に委員として参加

    • 「潜入調査のため」と所有者を説得

  2. 情報の操作

    • 設計コンサルタント公募の比較資料を改ざん

    • 自社の元社員が代表を務めるコンサルタント会社を有利に誘導

    • 他社の評価を意図的に低下

  3. 発覚と逮捕

    • 2025年5月17日:住居侵入容疑で1名を現行犯逮捕

    • もう1名は会議室から逃走(大阪ナンバーの車で帰阪)

    • 5月19日:検察送致、10日間勾留

    • 7月4日:管理組合が偽計業務妨害罪・詐欺未遂で告訴

    • 神奈川県警が両容疑で捜査開始

被疑者の供述

「大規模修繕委員会に適正な進め方を教えるためだった」 「会社の利益のためになるとも思った」


業界全体に蔓延する構造的問題

「なりすまし」は氷山の一角

報道後、複数の専門家が「この手口は氷山の一角」と証言しています。

実態

  • 神奈川県、千葉県でも類似事例が発覚

  • 「月5万円のギフト券」で住民にアプローチし、なりすましを依頼

  • 「この業界では複数の企業が住民に代わって修繕委員会に参加している」(業界関係者の証言)

バックマージンと談合の常態化

設計コンサルタント主導の談合

  • コンサルタントが施工会社からバックマージンを受領

  • 見積参加会社間で事前に受注者を決定(談合)

  • 管理組合の工事費は適正価格の120~150%に膨張

管理会社の利益相反

  • 修繕積立金の残高を把握した上で見積提示

  • 「修繕積立金の9割くらい」の金額設定が多発

  • 下請けへの中間マージン上乗せ

2025年春の公正取引委員会立入検査

2025年3月4日:長谷工リフォームほか20社に立入検査 2025年3月31日までに:建装工業、シミズ・ビルライフケア(清水建設完全子会社)など追加 2025年4月23日:大京穴吹建設、SMCR(三井住友建設グループ)など追加 検査対象:計約30社(業界大手がほぼ全て含まれる)

容疑:独占禁止法違反(不当な取引制限) 背景:業界専門家によれば「数十年以上、業界全体に談合が日常的に行われ続けている」との指摘がある


なぜマンション管理の適正化が急務なのか

狙われる高額な修繕積立金

数千万円規模の資金が動く

  • 一般的なマンション(50~100戸規模):2,000万~5,000万円

  • 大規模マンション(300戸以上):数億円規模

  • 不適切な業者選定で20~30%のコスト増

  • 例:3,000万円の工事→600~900万円の不当利益発生

素人集団の管理組合は「騙され放題」

管理組合理事の実態:

  • 輪番制で1~2年で交代

  • 専門知識がほぼゼロ

  • 本業と並行のボランティア活動

  • 工事の適正価格を判断できない

結果として悪徳業者の標的:

  • 築40年超マンション(2022年末125.7万戸)

  • 10年後には260.8万戸に倍増

  • 高経年化と管理組合の弱体化が進行


マンション管理計画認定制度が防衛線になる理由

1. 透明性の確保

認定基準により、以下が義務化:

  • 長期修繕計画の30年以上の策定

  • 修繕積立金の適切な水準維持

  • 総会の定期開催

  • 管理規約の整備

効果:不透明な業者選定が困難になる

2. 外部チェック機能の導入

  • マンション管理センターによる事前確認

  • 地方公共団体による認定審査

  • 5年ごとの更新で継続的監視

効果:第三者の目が入ることで、不正な誘導を抑止

3. 住民の当事者意識向上

認定取得プロセス:

  • 総会での決議が必須

  • 全住民への情報共有

  • 管理組合の能動的な取り組み

効果:「管理会社任せ」「業者任せ」からの脱却

4. 市場評価による抑止力

  • 認定マンション情報の公開

  • 管理適正評価制度との併用(72.3%が登録)

効果:管理不全の不祥事によってマンション全体の資産価値が落ちることを防ぐ


まとめ

マンション管理計画認定制度は、単なる「お墨付き」ではありません。

認定取得には、以下の条件が揃う必要があります。

  1. 住民全体の合意形成:総会決議が必須

  2. 長期的視点:30年以上の修繕計画と適切な積立金

  3. 継続的な管理意識:5年ごとの更新

  4. 事務負担への対応:申請・更新手続きの実行

賃貸と実需が混在するマンションにおいて、これらすべてを実現できるのは、住民の大多数が資産価値向上に本気で取り組んでいる証拠です。

2025年5月の「なりすまし事件」が示したこと

  • 数千万円規模の修繕積立金を狙う悪徳業者の存在

  • 9ヶ月間も発覚しない管理組合の脆弱性

  • 業界全体に蔓延する談合とバックマージン

  • 素人集団の管理組合は専門業者に対して極めて無防備

認定制度が提供する防衛線

  • 透明性の確保による不正の抑止

  • 第三者チェックによる監視機能

  • 住民の当事者意識向上

  • 市場評価による管理不全の可視化

認定マンションは、2024年12月末時点で1,642件。全国約694万戸のマンションのうち、わずか0.024%です。この希少性こそが、認定取得マンションの住民意識の高さを物語っています。

悪徳業者に狙われるリスクが高まる中、マンション管理計画認定制度の取得は、住民が自らの資産を守るための積極的な意思表示なのです。


参考情報

相談窓口

マンション管理計画認定制度 相談ダイヤル

関連サイト

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